芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

酒を捨てる(続・続)

 酒が欲しい。頭の中で騒いでいる。わめいている。ボクの背後で、誰か得体の知れないものが、酒を飲め酒を飲め、連呼している。おびただしい声。あわただしいおしゃべり。増殖する声をボクは大きな消しゴムで消し続けている。頭に繁殖し交錯する酒という言葉を引きはがし、繰り返し繰り返し、暗い大きな穴へ捨てている。酒。酒。無数の酒という漢字が笑っている。酒がひしゃげている。ダンス! 足が生えている。うろうろしている。その声とその言葉の巨大なかたまりがぴたぴた波うっている……

 家で酒を飲まなくなってから、四十日が過ぎた。最近、夜の八時頃からたまらなく眠くなって、十時間前後眠っていることがある。それでも頭が重い。頭頂の周辺をぼんやり締めつける円が浮かんでいる。

 ダイニングの東窓の飾り棚の中央に、北側から並んでワイフの遺影、ワイフの骨壷、愛犬ジャックの骨壷が置かれている。ボクはダイニングテーブルを前にして腰を下し、時折彼等を見つめて話しかけながら、本を読んだり、パソコンで遊んだり、白紙にペンを走らせている。しばしば、睡魔に襲われ、座ったまま眠っている。