芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

アルファさん 第二十九夜

 アルファさんはオレンジ色の水着を着ていた。

 いったいどうしたんだろう。よく見れば、彼女の背後に屋外プールがあった。誰も泳いでいない冬の夜のプール。一月二十九日の未明。

 どうなってるんだろう。ボクも濃紺の水着姿だった。わかった! これからふたりで水泳をして遊ぼう、楽しもう、冬だけど、屋外プールで。

 星がいっぱいだった。二十六日が満月だったけれど、今夜もまだほとんど満月。「冬の星って、キレイね」、上天のオリオンの下、ボクの左腕に右腕を絡ませて、アルファさんはささやいた。

「ボクは昔、四十代の頃水泳教室へ行って、マスターズにも出てるよ。亡くなったワイフなんて高校時代水泳部だった。平泳ぎが得意で、ボクと一緒にマスターズに出たりして、彼女はメダルを取ったりして……」

「オメガちゃんはいい思い出がたくさんあって、幸せね」

 アルファさんは五十メートルプールの水面をすべるようにバタフライでしなやかに泳いだ。水しぶきが星明りに反射して、キラキラしていた。