芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

アルファさん 第二十二夜

 夜だけと思っていた。アルファさんと会えるのは夜だけだと。

 平日の午前中、ボクはいつも仕事に出ている。もう四十五年余り続けている仕事。ビジネスパートナーでもあった妻を喪ってからは午前十一時ごろ事務所を失礼する。バスに乗って昼前には自宅に帰り簡単なお昼ごはん。そのあと散歩。余談になるが、ボクラは自営業で、仕事も家事も妻とふたりだった。楽しかった。毎日が遊びだった。

 きょうは一月二十二日、月曜日。仕事から帰り、お昼をすませ、散歩する日。

 九年前まで妻とジャックと歩いていた芦屋市総合公園の散歩道をいまでも余程のことがない限り毎日歩いている。ところで、信じられないことが起こった。林間を歩いているとき、ふと左半身に人のぬくもりを感じた。びっくりした。肩ごしにアルファさんの顔が見えた。アルファさん! 叫んだ瞬間、彼女は消えた。

 スマホを見ると、午後一時十三分。

 いったいどうなってるんだろう。おそらく今夜は我が家を訪問できない何かの事情があって、しかたなく昼間に彼女は会いに来たのだろう、きっとそうに違いない、歩きつづけながら、ボクはそんな結論に至った。

 

 そうじゃなかった。

 夜も来てくれた!