芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

アルファさん 第二十三夜

 冬なのに桜が咲いていた。九年前に亡くなった妻、七年前に亡くなった愛犬ジャックといっしょに春になればいつもこの桜並木の遊歩道を歩いた。我が家の北数百メート先にあるキャナルパーク。ちなみに、ジャックは黒いラブラドールレトリバー。父親が言うのもおかしな話だが、賢くて優しくて遊び好きの男の子だった。

「アルファさん、どうして冬なのに桜が咲いているの」

「花は一年中、心の中で咲いているよ」

「冬の夜桜って、いいね」

「もう午前一時も過ぎた、こんな冬の真夜中に花見をするのも、ちょっといいじゃない。オメガちゃん、寒いでしょ、わたしの手、握ってもいいよ」