芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

楽しかった

 ひょっとしたら酒はからだにいいのかもしれない。そう思えるこのごろである。もちろん、毎日酒は飲んできた。そろそろ生まれて百年に近づいてきたが、昼間から当てなしで飲んでいる。元来私は酒が好きなので、当てやおかずはなしで飲むのが好きだった。振り返ってみれば、酒を飲まなかった友達、あるいは飲んでいたけれど健康のために途中で止めてしまった友達、彼等はもうこの世にいない。物故の人だった。今では残された二三人の飲み友達だけで、月に何度か居酒屋を訪れている。

 長い間飲んできたもんだ。だからといって、何か人生にためになることを主張しようとしているわけではない。むしろあと数年、いや一年でもいいから酒を飲み続けてこの世とオサラバするのを、楽しみにして暮らしてきた。酔っぱらってトテモ気持ちよくなって、就寝前には、死神がやって来るのは、いまかいまか、そんな戯れ言を子守唄にしてぐっすり眠っている。

 つまり、百年近い歳月を、酒を飲んですっかり忘れて背後に残してきたのだった。だったら、いっそのこと生まれてこなかったほうが、もっと気楽で、誰からも恨みを買わなかったのではなかろうか。そうなんだ。生まれてこなかったら、もっと楽しかった。今夜、酔っぱらってベッドに寝ころんで、ボクはそんな結論を出してしまった。