芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ジャックは永眠しました。

十月二十五日(火)午後零時四十五分、ジャックは永眠しました。二年余り前、ワイフを喪ったボクを、ジャックはずっと支えてくれていました。

 きょう、朝の散歩で元気がなかったジャックが気になり、なぜか胸騒ぎがして、仕事を切り上げ事務所を午前十一時に出ました。きのうの夕方は二時間近く散歩して、芦屋浜まで歩き、今までお世話になったたくさんの犬仲間に会って、お菓子をいっぱいご馳走になって上機嫌で帰宅した彼。

 きょうもお昼ご飯をいっしょに食べました。普段はダイニングテーブルの前に座ったボクの横に立ったりオスワリしたりして、ボクの手からお菓子を食べます。しかしきょうは様子が違って、専用のベッドから出ようとしません。ボクはベッドで伏せをしている彼に、おやつを運びました。

 不意に立ち上がり、表に出ようとします。食べるのが大好きな彼がおやつを欲しがらないのは、これまで一度もありません。彼を連れて自宅の裏の歩道へ出ました。彼はおしっことウンチをして、歩行姿勢のまま路面に頭を傾け、動こうとしません。

「ジャック、おとうさんが抱っこして、お家まで連れて帰っていい?」

 こんなことは初めてのことです。おおよそ三十五キロ近くある彼を抱え、ボクは我が家まで帰りました。家に着いた時、彼はボクをじっと見つめ、とてもうれしそうに尻尾を振っていました。

 散歩から帰ると、決まって飲んでいる牛乳を二口三口なめただけで、自分のベッドに静かに横たわりました。

「ジャック!」

 思わずボクは大声で叫んで、彼を抱きかかえました。「ジャック!」、ボクは連呼していました。背中やお腹を何度も愛撫しました。ジャックはボクの胸の中で息を引き取りました。

 十三年八ヶ月の生涯。ジャック、ありがとう。これからはおかあさんといっしょに生きてください。おとうさんの心は感謝の気持で張り裂けそうです。