芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

彼女を東京湾へ帰す

 ボクのワイフが亡くなって二年が過ぎた。けれど、彼女の骨は我が家のダイニングの東窓の飾り棚に遺影とならべて、花々に彩られて置かれている。花の水替えがボクの日課になっている。そして、骨壷と遺影を挟んで、彼女がボクと同じ屋根の下で暮らし始めた二十代から晩年までの写真が、まわりいちめん、飾られている。

 この二年間、どう表現すればいいのか、しばしば胸が圧迫されて息苦しくなる時間がやって来る。花の水替えをしていると、少しは落ち着いて、胸の中がしんとしている。

 ボクは、彼女の写真とおしゃべりしながら、ダイニングテーブルを前にして、飯を食べたり焼酎を飲んだり本を読んだり詩を書いたりしている。彼女が亡くなってから一秒たりともテレビは見ていない。ボクの中を空虚のようなものが支配して、出て行こうとしない。

 ボクは長い間、熟考してきた。ボクのワイフは東京の港区で生まれ、港区で育った。えっちゃん、ボクは来年の七月十九日、君の三年目の命日に、君の故郷、東京の海へ君の骨を帰したいと思う、君と約束したとおり、君があんなにも好きだった海へ。