芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

穴の向こう側に

 限りない淵がある。今夜、それを覗くまでは、そんな淵があるなんて、まったく信じてはいなかった。そればかりではなく、まるで興味もなく、まして詮索するなどは思いも寄らなかった。

 確かに深い淵は我が国土にも散在しているだろう。けれども限りない底なしの穴ならば、それをもはや深淵とは呼ばない。深淵ならば、つまるところ、最後にはその底が発見されるに違いない。

 深夜、私は咳込んで目覚めたのだった、ここ数日そんな不快な状態が続いていたのだったが。驚いたことに、穴の向こう側は無数だった。いったい何と表現すればよろしかろう。当然ではあるが「無数」は「限りない」存在で、それ自体、言語表現を超越していた。つまり永続する、永遠超越体だった。夜半に目覚め、天井を見つめながら、今のところ、私の衰弱した脳裏にはそれくらいの言葉しか浮かばなかった。しかしこれだけは確実であろう。穴の向こう側に存在する無数、永遠超越体は、すべて生きているのだった。何故なら、時折、さまざまな虫やら魚、鳥、蛇、人間、花などに変容して穴の向こう側で彼等は賑やかに遊んでいるのだった。いったいこれは何だ。