芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

背中で音がする

 カシャカシャという音がする。しかし私は聴いていないふりをした。だって、そうじゃないだろうか。自分の存在感を示すために音まで出すなんて。

 止めろ! ほんとは大声で怒鳴ってやりたい。音なんて出す前に、背中を向けて、さっさと引っ込んでいろ。奴の背中にそんな罵声を叩きつけてやりたいくらいだった。

 いかんせん。生まれてからこのかた、私にはそれが出来なかった。むしろ私の方がいつも奴に背中を向けるのだった。そしてその背中に奴のあらぬ雑言を背負うのだった。だから、背中の髄の辺りで音がするのだろうか。両耳を両手でふさいでも、カシャカシャというこの奇妙なノイズが止まないのは、背中の髄で鳴っているからだろうか。