芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

右の乳房まで

深夜に目覚め

ベッドに横たわったまま

ボンヤリ天井を見つめていると

にじり寄って来た

もうすっかりあなたは

あの世で生きているとばかり思っていた だが

左の頬から耳たぶまで吐息で湿って

くすぐったくて

まだ天井を見あげながら

あなたの冷たくなった人差指を握りしめ

こんな途方もない思いをわたしは抱くのだった……

 

この世に同じ人間が三人いると言われている

いったいあなたは誰だ

九年前 あの世へ旅立ったあなた本人か

それとも この世のどこかで生きている他の二人

そのうちのいずれか一人だろうか

いや 違う

そんなはずはない

彼女らは二人ともわたしの家を知らないはずだ

だから いま このベッドで添い寝できるわけなんてないじゃないか

それに

こいつはどうだ

人差指だけではなかった

あなたの右の乳房までこんなにも冷たいのだから

きっとお迎えに来たのだろう