芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

咳をした後で。

 微熱、咳、鼻水。ここ十日間くらいそんな症状を引きずっている。けれども、私は病院にも行かない、薬も飲まない。

 午前中はいつもの通り、事務所へ出て従来通り仕事をしている。また、午後からは読書や散歩、あれこれ文章を書いたり、もちろん毎日酒を飲み続けている。

 昨夜は、疲れて夜の八時ごろに寝た。未明、咳込んで目覚めた。しばらく天井を見つめながら、目覚める前の無数の黒と灰色の粒子が果てしなく続いている空間を思い出していた。午前三時三十八分。こんな言葉が浮かんだ。

 

 どこまでいってもなにもない

 えっちゃんでさえ消えている

 

 えっちゃん、九年前に亡くなった私の妻。もう眠れないので、そのまま起きて家事を始めた。

 辺りはすっかり明るくなり、庭の掃除も終わり、洗面所で手を洗いながら咳込んでいる時、こんな文字の列が頭に浮かんできた。午前八時二分だった。

 

 言葉はやって来る以外には

 どこにも 

 ない

 小鳥たちが

 朝

 我が家の庭でさえずるように