芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

「風と共に去りぬ」

 ワイフがボクより早く他界しなければ、おそらく一生ボクはこの本を読まなかったと思う。彼女が亡くなってこの七月で二年目を迎えるにあたって、彼女の思い出に、この本を読んだ。

 

 「風と共に去りぬ」世界文学全集21巻・22巻、大久保康雄・竹内道之助訳、河出書房新社

 

 この本は、二十代の前半、ボクとワイフが同じ屋根の下で暮らすようになった時、彼女が持参した本の一部で、「わたし、『風と共に去りぬ』って、とても好きなの」、そんな会話が頭の片隅に残っている。彼女に扇動されたが、ボクは読まなかった。余談になるが、作者のマーガレット・ミッチェルが1949年に交通事故で49歳で急逝した年、ボクは生まれている。しかしボクと違って、この人は不思議な人だと思う。どちらかというと地味な人生を送ったミッチェルは七年間を費やして33歳で完成したただひとつの作品を遺しただけなのだが、それが大作「風と共に去りぬ」だったとは。

 もうすぐ、二年になる。法事で言えば三回忌だが、ボクもワイフも無宗教だから通夜も葬式もしなかった、まして一周忌も三回忌も。ただ彼女を偲ぶよすがとして、遺品の中から「風と共に去りぬ」を抜き出して、それを読んだ。

 確かにワイフはこの本に登場するスカーレットに似ている。過去を振り返らず、常に現在から未来に向かってボクという重荷を引きずりながら歩みを運んでいたから。スカーレットが言うように、「誰かが重荷を引きずって生きなければならない」。

 ワイフはこの本を18歳のときに読んだに違いない。発行日が昭和41年1月の版だったばかりではなく、第4部47章(世界文学全集第22巻333ページ)に、その当時、東京の新橋に住んでいた彼女の地下鉄銀座線の定期券が挟まれていた。定期券には、彼女の旧姓、「吉田悦子18才」と記載されていた。