芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ある報告書

 巨大なコンクリート造の直方体の内部に無数の穴をあけ、約一万体の特殊生命体が生息していた。こういった直方体がこの惑星上に少なくとも百万棟は建造されていただろう。既に崩れ去って直方体の半ばは瓦礫化しているが。

 金属製の一辺数メートルの箱にこの特殊生命体は搭乗し、欲望する場所へ短時間で到着した。あるいは、この箱をさらに大型化し、空中を素早く飛行、彼等の盲目的な制御不能の欲望を満足させるためにこの惑星を執念深く周回している。今後詳細にわたって彼等の制御不能の欲望の結末を報告する。とりあえず以下、初期報告の概略を紹介しておこう。

 箱形の移動機械は地上型と空中型があることは先に述べたが、さらに海上型があることを付け加えておく。我々が調査・研究している特殊生命体の第一の特徴は、この惑星に生息する他の生命体から進化して、極端な自己中心的自動物体へと成長したことだった。従って、箱形の移動機械を利用して快適な生活をしながら、彼等の欲望を常に充足するためには、他の生命体を殺戮することはおろか、同類の特殊生命体を虐殺しても意に介さないそんな不思議な物体だった。

 他の生命体を殺戮する主たる理由を一点あげておこう。この特殊生命体は他の生命体を殺害して料理し、自らの内部に注入、その結果、生存する。さらに言えば、「料理」することによって生存効果だけではなく、その死体料理を体内に注入することによって彼等は快感するのだ! 噛み砕いていえば、自分だけがいい気持ちになるために彼等は他の生命体を殺害して生存する、こう言っても過言ではなかろう。

 現在、この特殊生命体が絶滅して少なくとも二百年は経過したと推定される。五百年前にこの惑星にやって来た時は、あちらこちらでいざこざを起こして相変わらず同類虐殺を繰り返していただけではあったのだが。だがしかし、一匹ないし数百匹くらいはまだ何処かでひっそり暮らしているのかもしれない。いや、実際我々は既に三匹捕獲してこの五百年間に一体何があったのか、聞き取り調査を始めている。今後さらなる調査・研究の上、後日詳細にわたって報告したい。