芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

耳もと

 疲れているのだろう。パソコンの前に座ってニュースを見ていても、いつの間にか瞼が落ちて体が揺らいでいる。あの女が隣に座って左の耳もとで何かささやいているようだが、あたたかくてとても湿った吐息だけが穴の周りを漂っている。時折、椅子に座ったまま倒れて、床の上で目覚めている。

「そんなことしてたら、いつかきっと大ケガするよ」

 あの女がまた耳もとにほとんど唇をくっつけておしゃべりをしている。頭を打ったら、死ぬよ、そんなコトバさえ聴こえて来る。

 最近はさらに疲れ切っているのだろう。パソコンの前に座ることが出来なくなってしまった。床に寝転んだまま、瞼を閉じて、左の耳もとであの女と遊んでいる。