芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

後藤光治個人詩誌「アビラ」十三号を読む。

 後藤光治さんから詩誌が送られてきた。

 

 後藤光治個人詩誌「アビラ」十三号 編集発行 後藤光治 2023年3月1日発行

 

 この詩誌は、従来の構成通り、まず巻頭に「ロラン語録」、次に「詩作品」六篇。「ロマン・ロラン断章」では、<ジャン・クリストフ>と<清水茂断章>。「詩のいずみ」では今回<表現者(凛々佳)の死を悼む>が書かれている。素晴らしい内容だと私は思う。最後に、「鬼の洗濯板」では<最先端量子科学が解き明かす(死)>について言及している。

 一読後、詩作品六篇を再読して、その詩の雑感を述べておきたい。まず、作品「歳月」は、実利だけを追い求める世界から遠く離れて生きて来た自分自身の過去へのまなざし、特に高校時代の青春を描いている。この著者の特徴ではないかと思われるが、多くの作品に、「時間」とその一回的・独自的な「記憶」が執拗に表現されていることだ。

 次の作品「幼馴染」では新たに「未来」をわずかに描き始めている。あるいはこういってよければ「晩年の未来」、そう言った時間に著者は突き当たったのだろうか。作品「大漁旗」は、従来の手慣れた世界、今は寂れてしまった村の過去、大漁旗がはためいていた日の思い出を語っている。現在の村の没落とその過去の祭りのような日々。

 さて、作品「二階級特進」は、戦争批判詩と言っていい。「特攻平和館」を訪れ、散華した若者が二階級特進してその場をしのぐ大本営への憤り。ただ、この詩の特徴は、そこにとどまらない。人間を全体としてみれば、過去・現在・未来という時空連続体としての存在者であるから、「特攻」という悲劇も責任はこの詩を書いている自分自身にもある、そんな認識だろう。もし同一状況でこの自分自身が大本営の椅子に座っていたら、やはり「特攻」を若者に号令していたのではあるまいか。私はこの詩をそう読んだ。

 作品「蚯蚓」は、すべての生命体は宇宙の夢の一部分だ、そういった生命の讃歌に将来つながっていく予感がする詩。最後の作品「点」。すべての存在者は一つの点であり、点即宇宙、宇宙即点、そう言った世界を描こうと意図された作品。この詩は、同詩誌の「鬼の洗濯板」に特集された<最先端量子科学の解き明かす「死」>へと連なっている。

 著者の作品には、新たに「宇宙」と「未来軸」が参加している。今後、著者はこの宇宙とその未来に突き進み、そこで経験した報告書を詩で表現せんと意志しているのだろうか。