芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

カアカア、捨てられた家。

 六月五日以来、三日か四日に一回、妻のカアカアだけが一人で我が家にやって来る。もう甘えた声を出さない。無言で、辺りの様子をうかがっている。急いでご飯をほおばり、以前のようにオカワリを催促しないで、あわてて飛び去って行く。また、以前のように一日に何度もやって来ない。一度来たきり、二度と姿を見せなかった。

 はたして、ここ十日間くらい、すっかりご無沙汰だったおそらく我が家までやって来ることが出来ない彼らなりの悲惨な事情があるのだろう。ほとんどボクラ、ニンゲンの世界と同じような事情が。

 きのうの朝、出勤前の九時過ぎ、近所の公園の雑木の茂みの中にまだ残っているカアカアたちの愛の巣を、スマホで私は撮った。閑散として誰も住んでいない。ほんの二ヶ月ほど前、あの愛の巣でカアカアは抱卵し、ヒナをかえし、巣の縁に立って前傾してヒナにご飯を与えていた。その姿を見て、うれしくて、私の心はどんなに喜びにあふれただろう。今は、ヒナばかりか、夫のカアカアでさえ消息を絶った。

 

 生きることは

 苦しむことだった

 ただ

 つかの間の

 喜びに

 感謝して