芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

カアカアに、私は教えられた。

 けさ七時ごろ、玄関ドアを開けると、階段下の隅っこでカアカアが私を見上げていた。

 私はきょうも三時半ごろ起きると、長男と私の朝ご飯を作ったり、パソコンでニュースを見たり、本を読んだり、それから、昨夜の酒が抜け落ちてスッキリ透明になった頭を使って文章を書いていた。六時になったので、先に私一人でご飯を済ませ、食器類をかたづけ、亡くなった妻と猫と犬の骨壺と遺影を飾っているふたつの花瓶を流し台で洗い、花をキレイにととのえて、元の飾り棚に納めた。さて、次は庭掃除、そう思って玄関のドアを開けたのだった。

 思うに、他のカラスはいつも彼をいじめるので物陰に身を潜め、私が出てくるのを今か今かと待っていたに違いない。玄関先でご飯を食べた後は、私を見て安心したのだろう。根元から三分の一くらいのところで少し折れ曲がった羽を支えながら、例の右足を引きずったような足取りで庭をピョコピョコ跳ね回り、果ては道路にまで飛び出してはしゃいでいる。

 やはり、この世では、利害関係を同じくするもの同士が相争うのであろう。私はカアカアが右足を引きずって遊んでいる姿を見つめながら、こんな言葉を口ずさんでいた。

 

 カラスの敵は

 カラス

 ニンゲンの敵は

 ニンゲンだった

 

 ……だからこそ、ともに愛しあってこの世を生きるのがとても貴重であり、切ない願望であり、また、こう言ってよければ、いちばん大きなこの世の喜びだった。昔からそうだった。