芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

消えた両足

 耳もとでザラザラしたノイズが騒いで、前頭葉に張り付くような砂の映像がカチカチ固まり始めた瞬時、私はベッドに寝ころんだまま闇に浮かぶ天井を見つめていた。午前二時十六分。何故か耐えがたい寂寥感にかき乱されていた。すべては無意味だ、頭頂が大声でそう喚いていた。だが、私は条件反射のごとく飛び起き、映像の破片で砕けた意識を集中して、その映像の全体を忘れないうちに再生してノートに書き込んでいた……

 

 ……横二メートル、縦四メートルくらいの長方形の平面上は砂で覆われていた。その中央をふくらはぎから下だけの右足と左足が歩いている。歩くたび、砂上に足跡が浮かんでいるが、ほとんどそれと知れないくらいの微風が常に流れているのだろう、数秒後には音もなく砂の下に消えてゆく。

 両足は上に近づいた。長方形の上辺では空間が歪んでいるのか、両足がユラユラ揺らめき出した。緩やかな弓なりにたわみながら、砂の上に両足が倒れた。ふくらはぎから足の裏まで、ほとんど三十秒足らずで、砂になった。