芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

オーウェルの「動物農場」再読

 この本はおそらく一九六〇年代の日本においてそれなりに読まれたのではないだろうか? 従来のソヴィエト系の革命思想ではなく、反スターリン系の革命思想を愛好する人々は往々にしてこの著者の「カタロニア讃歌」から入って、この本や同じ著者の「一九八四年」あたりを手にしたのではなかったか? 

 

 「動物農場」 ジョージ・オー-ウェル著 高畠文夫訳 角川文庫 昭和61年9月20日 24版

 

 この本の巻末には開高健のエッセイや訳者の文庫本にしては驚くべき詳細な解説が付いていて、私が改めて述べるようなことは、一言もない。

 ただ、私の場合は、「動物農場」という作品は、権力構造全般の本質を寓話によって表現した小説だ、とそこまで大袈裟に考えることでもなく、直接的にはカタロニアにおける第三インター系共産党による所謂「トロツキスト」の弾圧の渦中で九死に一生を得た経験を軸にして、時至って、オーウェルの内部でその経験が言語化されたものだ、これで十分過ぎるくらい十分ではないだろうか? 社会科学ではなく、文学における経験とはそういった個としての特異な経験のズッシリした重さが滲み出てくるものではないだろうか?

 それはさておき、私は最近、先程ちょっと触れた、日本における一九六〇年代の状況を回想しながら、この本を読んだ。また、この本の周辺も読み歩いてみた。いや、現在も引き続いてこの周辺の読書散歩道を散策している。「芦屋芸術」のブログに既に発表しているが、例えばこうである。

 

 2021年3月24日 トロツキーの「裏切られた革命」

 2021年2月14日 トロツキーの「一九〇五年革命・結果と展望」

 2021年2月8日  トロツキーの「永続革命論」

 2021年1月29日 ザミャーチンの「われら」

 2021年1月15日 トロツキーの「スペイン革命と人民戦線」

 2021年1月7日  ジョージ・オー-ウェルの「カタロニア讃歌」

 

 言うまでもなく、去年までも断続的にではあるが、十九世紀から二十世紀にかけての革命思想の周辺には私はトテモ興味を持って読んでいる。先日発行した「芦屋芸術十二号」にも革命思想を中心にした読書感想文を収録した。これからもちょくちょく読んでいくだろう。老後の楽しみにしたい。

 この本には、「動物農場」とは別にオーウェルの苦渋満ちた経験を言語に表現した三つの短篇が収録されている。いずれも秀作である。特に「象を射つ」には感銘した。未読の方は、ぜひ読んでいただきたい。あなたの貴重なお時間を浪費したとしても、おそらく後悔しないと思う。