芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ジョージ・オー-ウェルの「一九八四年」再読

 もうずいぶん昔のことだった。西宮図書館で借りた一冊の本の中に、近未来小説の傑作、ハクスリーの「すばらしい新世界」と、この作品が入っていた。もう五十年近くなるのではないだろうか。その作品をもう一度読みたくなって、新訳の文庫本を買った。

 

 「一九八四年」 ジョージ・オー-ウェル著 高橋和久訳 ハヤカワ文庫 2020年11月15日45刷

 

 近頃、老後の楽しみで、昔読んだ本をあれこれ再読して楽しんでいるが、この著者の場合、「カタロニア讃歌」、「動物農場」と読み進んできて、やはり「一九八四年」の扉を開いた。

 この文庫本の特徴は、新訳でかなり読みやすくなっているのではないか、そんな印象を持ったのと、巻末のトマス・ピンチョンのオーウェル論と言ってもおかしくない詳細を極めた「解説」によって私のような老後の楽しみばかりではなく、オーウェルに初めて接する若い人にも作品の時代背景も含めて理解できるようになっている。読者に優しくなっているなア、いいことじゃないか、そんな感慨を私は抱いた。

 言うまでもなくこの作品はスターリンを超えた窮極の全体主義国家を具象的に表現した近未来小説である。作品の根底には、著者の苛酷な体験が息づいており、どうしても書かざるを得なかった言語作品として、読者に迫る。私にはザミャーチンの「われら」とこの作品がディストピアを描いた言語世界の双璧として立っている。