芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

不思議の国のマザー

入れ歯がない、ワイフが騒ぎ出した。皿に置いたマザーの入れ歯をワイフはあやまって蒲団の辺りに落としたのだが、下の入れ歯は見つかったのに、上の入れ歯が行方不明。入レ歯ガナイワ、ドッコイショ、入レ歯ガナイワ、ドッコイショヨイコラショ……東京マザーはぶつぶつつぶやいて。ひょっとしたら最初から皿の上にはなかったのかも、ワイフはほとんど混乱して。ファミリーみんなで、つまりボクとワイフふたりであちこち家捜しした結果、ついにボクが発見した、落下地点付近に立っている棚の奥の方に収まっていた入れ歯を。おそらく落下した時、入れ歯が床から飛び跳ねたのか、あるいはとても痛いやら怖いやら必死で棚の奥まで逃げ込んだのか。

その夜、ボクは入れ歯が歩いている夢を見た。