芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

井上雅博の「この空の下で」

 言うまでもなく、いかに悲惨な戦争によって身体に障害を残し、あるいは屈辱的な精神の打撃を被っても、終戦後、その心とからだを引きずりながら、おのれの生命の火が消えるまで、人は生を営まなければならない。

 

 「この空の下で」 井上雅博著 朝日学生新聞社 2011年4月30日初版

 

 この物語は、帰還後結婚を誓い合って出征した男性と、勤労動員中の女性が、共に広島で原子爆弾に被災、重傷を負ったふたりのその後の愛の物語を、女性の弟の目から見た言葉でつづられている。

 確かに米英をはじめとする敵を憎むのはたやすい。だが、ふたたび敵同士にならないために、たがいに愛しあうのは至難のわざだろう。この物語は、この至難のわざがいま、ここにやってきてください、戦争で傷ついた人たちの祈りの言葉だった。