芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

永井隆の「ロザリオの鎖」

 一九四五年八月九日の長崎に投下された原爆で、自宅にいた妻を失い、著者自身も長崎医科大学の自室で学生の外来患者診察の指導のためのレントゲンフィルムを選別していた時に被災、傷病をかかえたまま救援活動に徹した記録は著者の書いた「長崎の鐘」に詳しい。

 その後、原子病に倒れ、廃墟と化した自宅跡に建てたバラックの病床の中で、二年余りにわたって書いた随筆をまとめて、本書はなった。

 

 「ロザリオの鎖」 永井隆著 発行所サンパウロ 2017年6月12日初版8刷

 

 この本は一九四八年三月に発表されたものである。疎開していて戦災にあわなかった息子と娘との三人の生活記録を底辺にして、科学者としての著者の世界観・宗教観、さまざまな人々との交流、亡妻や父母の思い出、日々の出来事などを、常に神の下で自分自身を厳しく批判しながら、透明な文章で表現されていて、読む人の心を癒してくれる。

 この本の「自序」にはこう書かれている。

 

 今私の心を占めているのは、「神のご栄光のために」という一念である。(1頁)

 

 ボクは無宗教の人間なので、この辺りについて何ら積極的な考えを述べるに値しない。ただ、カトリックの信仰を深くする余り、著者は他の宗教の全否定に近い発言をしている個所があるが、いかがなものであろう?