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「栗原貞子詩集」を読む

 最近、所謂「原爆文学」と呼ばれている作品を読み続けているが、ほとんどの作品が絶版になっている。従って、ネットで探して、中古品を買わざるを得ない。既に、「原爆文学」は、日本人の心から離別したのだろうか? 「ヒロシマ」や「ナガサキ」の傷はすっかり癒されたのだろうか?
 今回読んだ詩集も、また、中古品で入手した。値段は定価の三倍余りした。ということは、逆に、絶版にはなっていても、まだ読みたい人はかなりいる、という証左でもあろう。

 「栗原貞子詩集」 日本現代詩文庫第17巻 土曜美術社出版販売 1998年8月15日第三版

 著者は三十二歳の時、八月六日、ヒロシマで、爆心四粁にあった自宅で被爆している。そして、その翌年の一九四六年八月、詩歌集「黒い卵」を刊行。文学運動を中心にして反核運動に積極的に参加してゆく。その運動の中で原爆だけではなく、平和利用だとされている原子力発電にも反対している。また、著者自身は原爆の被害者ではあるが、大局的に見れば、戦前のアジア侵略者としての日本人として、また、戦後の朝鮮戦争やベトナム戦争の反戦運動を通じて、加害者としての自分自身に思い至り、さらに公害運動にまで、運動の輪を拡げている。スサマジイとしか言いようのない信念と活動力で戦後を突き抜けた詩人だった。
 今、福島原発の事故で、場合によっては、ということは、処理方法を一歩誤れば、日本はトテモ暗い未来を背負っていく運命の岐路に立っているのかも知れない。ひょっとすれば、利用してはならない科学が存在しているのかも知れない。栗原貞子はその状況を予言するかのごとく、例えば、詩集「核時代の童話」(1982年3月発行)の中の「黄金と核」という作品で、こう書いている。

 <前略>
 現代では
 黄金よりも核が好きな
 王様たちがいて
 王様の手がボタンにふれると
 一瞬のうちに
 人類が滅亡するという
 魔力を持つようになりました。
 王様たちは フットボールでも
 蹴るように 核爆弾を爆発させ
 実験の競争をしました。
 国中に核兵器工場や
 原子力発電所を 網の目のように
 つくりました。
 死の灰が
 国境や海をこえて世界中に
 ひろがりました。
 放射能を吸った人の体は
 ゆっくり確実に蝕ばまれ
 白血病や癌になり
 髪が抜け 斑点が出て
 血を吐いて死んでゆくのです。
 それでも王様たちは
 因果関係が不明だと
 安全をくりかえしているのです。
 <後略>

 もうそろそろ、時の政治や経済の中枢に立っている人々も、自らの政治信念や信条に先だって、襟を正して、謙虚に耳を傾けるべき状況がやって来ているのではないだろうか?