芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

「吉田一穂全集」第三巻を読む

 第三巻は、この詩人の童話作品が収録されている。第一巻から読み始め、この第三巻に至って、彼のすべての作品を読み終えたことになる。

 「定本吉田一穂全集」第三巻 昭和58年1月20日発行 小澤書店

 もう少し詳しくみてみよう。まず、この第三巻は大別して、「童話篇」と「書簡」に分類されている。さらに「童話篇」は、単行本で出版された「童話集」、すなわち、

 「海の人形」 1924年(大正13年)5月20日発行 金星堂
 「ぎんのさかな」 1941年(昭和16年)1月5日発行 金井信生堂出版
 「かしの木とことり」 1944年(昭和19年)4月20日発行 フタバ書院成光館

 次に、「絵本童話」、これは初山滋等、さまざまな画家の絵と吉田一穂の作品によって構成され、主に、金井信生堂とキンダーブックから出版されている。尚、初山滋に関しては、全集第二巻に言及されていることを付言しておく。
 最後に、上記に掲載されなかったが、「中学生」、「少年倶楽部」あるいは「幼年の友」等に発表された作品群を「童話篇拾遺」としてまとめられている。
 第一巻の詩篇から第三巻の童話まで通読してみると、吉田一穂は童話の職業作家だったと言って過言ではないと思う。いやしくも作家たるものは稿料によって生活せんと悪戦苦闘する存在だとしたら、そういう意味でも、吉田一穂は童話作家であり、極言すれば、詩や評論や随筆は余技ではなかったか。それはともかく、ボクは吉田一穂がプロの童話作家として、これだけ真剣に集中して二十代から四十代半ばまで書き続けていたのを知って、貧乏詩人の真髄を見た。これが本格派詩人の本来の姿なのだろう。

 「土の そこで、くらい 七ねんを すごして、せみは 天の うたを うたふ。」(「かしの木とことり」収録の作品「みつばち」から。本書231頁)