芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

美馬翔の「余儀ひろみの履歴書」を読む。

 美馬翔さんからこんな同人誌を送っていただいた。

 

 「白鴉」26号 編集/同人共同編集 発行/白鴉文学の会 2011年12月5日発行

 

 この同人誌の中で美馬翔は「余儀ひろみの履歴書」という作品を発表している。

 詳細は、もちろん言うまでもなく本作品を読んでいただくことにして、ただこれだけはあらかじめ読者にお伝えしておきたい。

 物語の背景を織りなしているのは、主人公余儀ひろみが幼い頃、小学校三年生の時に経験した父の祖父母の養女、ひととき同居したこともある家族、思えば大好きだったひろこ姉ちゃんの自殺の話を根底にしている。従って、この物語はずっとその暗い影を引きずったまま、その後の人生、家族やさまざまな人との出会いを語りながら、やはりひろこ姉ちゃんが自殺した室戸岬の海を主人公ひろみが訪ねる場面で終幕を迎える。

 この作品を読んで私は思うのだが、人間という生命体の心、あるいは西洋風の言葉を使うなら、精神、これが生み出す汚辱の底を若い頃に通過した作家、時到って、どうしても自分の過去、通り過ぎたどうしようもない人間の世界を語らざるを得なかった、そんな自伝風作品だった。また、作者の生きた世間、社会を客観の眼ではなく、主体との接点を大切にしながら最後まで書ききっているので、作者が共にした時代がまるで目に浮かぶようだった。

 私も昔旅して作者が作品の最後に物語る寺や茫漠とした室戸の海に出会ったことがある。つまり、先にも言ったが、この物語はひろこ姉ちゃんが自殺した四国の室戸岬で終わっている。確かに広大で何も見えない果てしない海だけが読者の眼前に漂い続けているだろう。その風景を見事に描き切って幕を下ろすのだった。