朝食後、流し台で食器類を洗っていると、スマホの着信音が鳴っていた。水を止め、いつも置いているダイニングテーブルまでわざわざ小走りで確認したが、着信した形跡はなかった。
ふたたび洗い物をし始めたが、すぐに着信音が聞こえた。だが近づくと、テーブル上のスマホは鳴っていない。これって、何?
仕方なく、もう一度洗い物に取り掛かったが、また、着信音。念のため、確認。着信歴なし。腹立たしくなって、流し台の前でずっと立ち続けていたら、着信音は鳴りっぱなし。近づくと、音はしない。スマホは静寂で、口を閉ざしたまま沈黙している。
Mは病んでいるのだろうか。どうだろうか。医者嫌いだから診察にはいかないが、ひょっとしたら、かなり深刻な状態ではないだろうか。
だって、やって来るのは着信音だけではなかった。虫だろうか。どこかでガサゴサ這いずり回っている音がする。数百匹いるのだろうか。それはともかく、Mは一つの問いに悩まされていた。
ひとつの問い……発信者は誰だ。機械という物質か、それとも或る生命体という物質なのか。Mはこの二つの答えの間で、いったい誰だ、思いをめぐらした。一晩中。
待てよ。最近ずっと、リカとは音信不通だ。だったら、発信者は彼女だろうか。それならば、リカは機械なのか、それとも或る生命体だろうか。