芦屋芸術|芸術誌・現代詩・小説

今夜も ひとり

 事故をやってしまった。何とかしたい。協力してくれないか。

 ホラ。これが事故の詳細だ。出来るだけ細部までわかるように書いたつもりだ。一読してくれ。不明な点があれば遠慮しないで訊いてくれ。いつでも説明するから。

 

 こんな依頼を受けた。工事中の事故だろうか。何か物を壊したみたいだ。ただ、文字がくねくねしていて、いったい何が起こっているのか、解読できない書類を受け取ってしまった。

 

 そのうえ、事故は一件だけではなかった。別件があって、どこかの従業員だろうか、それとも下請負人だろうか、誰かが負傷しているらしい。背後に薄気味悪い危機感が漂っている報告書だが。ひょっとしたら重大事故が発生しているのではないだろうか。

 

 報告書の六ページ目辺りから、ますます話が混沌として来て、支離滅裂で、内容が欠落した記号だけが組み合わされているのか、不思議なパズルの世界をさまよっている、そんな気持ちがしてきた。

 

 もう一枚、茶色く色褪せた紙が出てきた。前件とは違う物の損害が街角だろうか、いや待て、エレベーター内ではないだろうか、原因不明で発生しているようだ。だったら、この書類は二件の物損事故と一件の人身事故、計三件の事故報告書ではないか。流れ乱れるような文字や、錯綜した図解などが入り混じって、Mの頭の中がぺらぺら振動し混乱している。

 

 スマホを見た。まだ午前三時過ぎ。夜明けまで、ベッドに横たわったまま、Mはこの事故報告書の解明作業を続けることにした。