芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

初めての夜に

メグミ 北海道の畑でレタスとキャベツが百二十個とれたの。もう芦屋まで届いたわ。見て、こんなにタクサン。

 

M こんなの、食べきれないナア。どこに配ろうか。

 

 おそらくもう夕暮れ時なのだろう。空が真っ赤に染まっている。だがその空が、西空なのか東の空なのか、判然としなかった。東なら朝焼けに違いない。でもなぜかしら黄昏が迫っていて、辺りが闇へ沈んでいく気持ちがした。だから、この赤い空は、夕焼けではないだろうか。

 

メグミ それにピーマンだって、こんなにいっぱい。栄養の百科事典、ブロッコリーも。

 

M そうだな、豊中のカンチャンにもあげよう。ヨシッ! ラインしまくって、今夜は野菜の立食パーティーをやろう。メグミちゃんちで。お酒はみんな持ち寄って。

 

メグミ そうよね。これだったら、とても新鮮だから洗うだけでOK。トマトもあるし、リンゴもバナナも、パイナップルもいっぱい。ネエネエ、知ってる? 北海道でヤシの実も出来るんだって。函館港のヤシの実公園、若いカップルでにぎわってる。Mちゃん、わたし達もう熟年だけど、来週、ふたりきりでヤシの実公園、散歩しない。この野菜や果物みたいにいっぱい、愛してあげる。

 

M だったら、飛行機やホテルをすぐに予約しなくちゃ。

 

メグミ あんたがするのが、当たり前よ。男って何もかも全部やるものよ。言っとくけど、ホテルは二部屋取っといてね。散歩と食事は一緒にしてあげるから。

 

M メグミちゃんって、いつも、優しいね。

 

メグミ そうよ。今頃やっとわかったの。場末のラブホはイヤよ。ラグジュアリーのスイートルームよ。

 

 夜も更けた。深夜のスナックのカウンター席に座り、こんなとんでもない与太話をメグミとMはグラスを傾けて、タバコをふかしながら、時折見つめあって、楽しみ浮かれている。

 二人は初対面だった。