芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

オレ達の習性

 虫がいるのかもしれない。いや、そうに違いない。朝起きると腋の下や腰回りなどで、カユイ。カユクてタマラナイ。最近、そんな朝が、シバシバ。しばらく、腕組み。これでは、ダメ。オレの将来は暗い。Mはそう結論付けた。早めの対策が……さらにそう結論した。

 

―ヤミオちゃん、あたしね、若い頃、サンザンな目にあってるのよ。バカなのはあいつじゃなくて、もちろん、あたしだけど。だって、あんな卑劣漢と結婚したあたしに見る目がなかったんだから。あたし、おバカさん。

 スゴイ男。バクチで借金、オンナで借金。借金まみれであたしを殴ったり、蹴ったり。毎晩暴力バーか、サディストパーティーにお勤め。笑っちゃうわ。離婚するって言ったら、ホウキで頭の天辺、叩かれちゃったあ。まるでハエ、ゴキブリ。そうね、あたし、今度、ゴキブリ女って自伝小説書こうかしら……

 

 虫を殺さなければならない。叩き潰さなければ……Mは決意した。夜中に刺されて、カユクならないために。ヨシ。今度の日曜日は洗濯だ。何もかも洗いざらい洗い流してやる。見てやがれ。ダニも、ノミも。

 

―ヤミちゃん、ごめんね。こんな暗い話ばかりして。あたしって、根っから、暗い女。ここを、見て。ここ。耳の二つの穴から、毎晩、コールタールが流れ出してくるの。お願い。今度の日曜日、洗い流して。全部。この両耳の穴から流れ出してくるコールタール、全部よ。

 誰か、こんなあたしでも、心底、愛してくれるのかしら。どう思う。ヤミちゃん。この耳、どうぞ洗ってやってください。ヤミオさま。あたしをキレイにしてください。生まれた時の、元のカラダにしてやってください。

 

 布団を干したり、シーツを洗ったり。日曜日のこれが一番大切なMの仕事。ちょっと待て。Mだけじゃないだろ。ヤミオだってリカだって。そうじゃないか。イヤな奴は洗い流して、排除するのが、オレ達の習性じゃなかったのか。