意外と早いのかもしれない。彼は両てのひらを見つめながら、椅子に座り、じっとうつむいていた。死刑がやって来るのは。
留置場に二十三日間の拘留。その間、脳裏にさまざまな顔が現れる。さまざまな。しかし、彼女は現れなかった。なぜなら、彼が彼女と出会ったのは不起訴処分により釈放された後だったから。それでは、どうして彼女が真犯人だと気付いたのだろう。そのうえどうして身を賭して彼女を守ろうとしたのであろう。もう五十年余り昔の話で、あちらこちら記憶に穴が開いていた。ほとんど数字の消えたビンゴカードだった。
もうこれ以上問うのは止そう。彼女を守るために出頭して逮捕されたのは事実だった。そして二十三日間拘留された後、不起訴処分になって、警察署の留置所から放り出された。夕闇が迫っていた。五月二十一日。けれど彼にとって春の季節感など残されてはいない。この事件は迷宮入りになった。死者まで出た事件だったが、すべては今も闇に沈んだままだ。それでいいではないか。
二年後、彼と彼女は愛しあった。