芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

砂戦争

 何が鳴っているのだろう。よくわからなかった。川の流れる音がしているが、この辺りにそんなものがあるはずはなかった。荒地のはずだった。それじゃあ、地下水でも流れているのか。長年この家に住んでいるが、そんな噂はついぞなかった。そのうえ、水の音が聞こえるのは初めてのことだった。いや、やはり違う。これは砂だ。砂戦争が始まったのだ。

 この惑星に移住して七十五年。平穏無事の歳月だった。ところがどうだろう、この音は。全体が砂化しているのだ。先住民は五百年前に死滅した。土壌に埋もれたUSBからその情報を得た。現在の荒地になる前は、川も森も存在した。さまざまな生物も棲息していたらしい。USB情報は真実だった。既に砂戦争が始まっていたのだ。

 明日、瞬間移動装置を再点検して、違った惑星に移動しなければならないだろう。躊躇してはならない。この数時間の間でも、ザラザラ荒れ続け、ズボンドン・ズボンドン崩れ続け、砂流音は鳴りやまなかった。いやましに増幅し、大合唱しているじゃあないか。三日後にはこの惑星は崩壊して、宇宙から消滅する。明日だ。明日、出発だ!

 そう決意を固めると、彼はふたたび眠りに落ちた。