来る日も来る日もわたくしは真昼になると近所の公園を通り抜け、芦屋の海辺を散策している。五月に入り、真夏日かと思われる日もあり、炎天下、たとい帽子をかぶっているとはいえ、頭の中では陽炎に似たゆらめきが立ちこめている。
時折会う女がいる。この昼間、また彼女の一行が前方からやって来た。例のごとく、十数人の列の先頭にいる。左には介護士のような男が付き添っていて、彼女の左腕をほとんど押さえんばかりにしているように見えなくもなかった。
声を交わしたことはついぞなかった。ただ、わたくしとその女は会うたびにじっと見つめあっている。彼女は右腕をL字形に曲げ、てのひらを左右に振ってくれる。美しい人だ。何ものにもかえがたい、一点の汚れもない、笑顔が零れている。この時、いつものことだが、わたくしの心はこんな言葉を刻んでいる。
わたくしはあなたに恋情さえ覚えます
それは
一切の濁りが洗われた
純粋な恋
激しくて 切なくて
とても清らかな恋
すべての過去が消え落ちた
真昼の恋
何度も心に繰り返しては
きょうもあなたとお別れするのです