芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ふたつのてのひら

 原因は不明だった。ウイルス性のものが全身を覆っているのだろうか。

 この症状を痛みだといえばいいのか。苦しみなのか。それとも悲しみと痒みが交錯している、そう表現すればいいのだろうか。

 ウイルスから身を守るため、まはだかになって全身を洗うことにした。浴室の扉を開けた。

 症状が重くて一番しつこい、頭から洗うことにした。

 頭の中から絶え間なく聴こえてくるキラキラ声を洗い流そうとした。それはさながら声を出す無数の小さな星だった。頭から首筋に水を落としながら彼は、星、ウイルス、とつぶやいた。

 髪の毛を洗い終わってもうつむいたまま、てのひらに垂れるしずくになった星を彼は見つめていた。ふたつのてのひらに溜まった小さな星座群。彼等が、やがて音立てて騒ぎだした。