芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

消えてゆく人

 わたくしはひとりだった。

 ここではさまざまな人が働いているのだとばかり思っていた。しかし、それは虚妄だった。

 音もなかった。別に眠っているわけではない。目覚めているのだが。言葉さえ聞こえなかった。無音で、無言だった。むしろ極論すればこう言ってよかった。自分で発語しない限り、いかなる言葉もこの世に存在しないことがわかったと。そうなんだ。やっとわかったんだ。言葉は自分自身だった。わたくしそのものだった。なぜもっと早く気づかなかったのか。無音で無言の日々、もはやわたくしはこの世に存在していないのだった。

 

 ひとりならば あすはなかった

 きょうだけが つるつる去っていく

 

 そのうえ終日 無音で 無言ならば

 いかんせん ホラ わたくしは消えてゆく人だった