芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

お別れパーティー

 ボクの方からお別れするつもりなんてみじんもなかった。だが、誘われた以上、その夜、出かけざるを得なかった。ボクにとってはやるせなく、とても淋しいパーティーだった。

 会費は一人三千円だった。E子の家で。彼女も入れて七人。みんなビールやワインや日本酒を持ち込んでずいぶん酔っぱらって、他愛ないおしゃべりが続いた。

 突然E子がボクにこう言った。Tさん、あんた詩を書いてるって、そんなうわさ聞いたの。だったら、ねえここで、いま、あなたの詩を朗読してくれない。台本なしで。即興でもいいの。だって、あと数時間、これがあなたとあたしの最後の夜ですもの。周りからもリクエストの連呼があがった、イイネ、イイネ、ホントにイイネ。

 ボクはそうとう酔っぱらっていたのだろう。椅子から立ち上がり、テーブルに両手をついて体を支え、それじゃあ、お別れパーティー、そんな題の詩を即興演奏しましょうか。

 

 体が絶不調を訴えていた

 きょうに限ったことじゃないが

 耳鳴りがした 

 全身 ガチャガチャきしり始めた

 どこかが折れる音がした

 ポキリン ポキポキ リンポキ リンポキ リンリンリンポキ ポッキンコロリン

 右足が折れたのか 小指か それとも首、小腸、あるいは……

 ホイサ ホイサ ホイ サッサ それみたことか ホイサッサ

 もうなにがなんだかわからなかった

 いつも こうだった

 話すことがデタラメだった

 あなたに

 サヨナラも言えない

 お別れパーティー

 こんなにも愛してるのに

 好きだ

 この一言が出なかった

 最後の夜なのに

 体が絶不調を訴えていた

 小指が折れたのか それとも右足が折れたのか 首か 小腸か あるいは……

 ポキリン ポキリン ホイッサ ホイッサ ポキリンホイッサ ポッキンホ……

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 すっかり酩酊してしまって、そのあと何があったのか、もう定かではなかった。

 言うまでもなくあのパーティー以来、E子とは一度も会っていない。いや、より正確に言えば、永遠に音信不通だった。すい臓がんの末期だったE子。余命一か月なの、耳もとで囁いた彼女の声がきのうのように残っている。最後のパーティーの夜、泥酔した脳裡に浮かんでいるこんな二行詩を鉛筆で紙ナプキンに書いて、彼女に渡そうとして、やはり渡せなかった。

 

 会っているあいだだけが あなただった

 でも 別れても あなたは消えなかった