芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

赤いスープ

スープが出て来た。濁った赤。

人参だろうか。それともトマト?

だだっ広いレストランに彼ひとりだった。

従業員の姿が見えない。

ならば、このスープは誰が運んだのだろう。

こんな初歩的な疑問が頭をかすめた。

まあ、いいじゃないか。

背後から声がした。

ダメだ、ジットしていろ。

けれど、

がまんがならず、

つい振り返ってしまった。

ここはレストランではなかった。

一瞬、彼の腹の底からものすごい悲鳴が出た。

喉にかぶりつかれた。

椅子に座ったままテーブルの上にひっくり返った。

赤いスープが飛び散った。