芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

立入禁止だった。

 仕事から帰ってみると、立入禁止になっていた。九年前に妻を喪ってからというもの、一人住まいだったため、確かに廃屋に近い状態だと言えなくもなかった。しかし私はこの中で飯を食ったりベッドに寝ころんだりして暮らしてきたのだ。ご近所からは汚い檻に住むケダモノ同然じゃないか、そんな後ろ指をさされていたにせよ。

 かれこれ五十年余り住んできた2DKの小さな平屋建てだった。この家の周囲を青い洗濯ロープで何重にも囲み、玄関ドアに「立入禁止」と大きな朱書が貼られている。その朱書の下に黒字でこう書かれていた。「この家の者の所有権は本日二〇二三年十二月九日土曜日午前三時三十分をもって剝奪する」。

 この日時を見て私は驚いてしまった。きょうは土曜日で仕事は休みだった。だが何故私は仕事帰りなのだろう。しかも、今、スマホで時間を調べてみたら午前三時三十三分だった。こんな未明に、何故私は門灯も消えた我が家の門前に立ち尽くしているのだろう。

 念のため私はもう一度我が家の玄関ドアを懐中電灯で照らして、じっと見つめた。間違いなくそこには「立入禁止」と大きく朱書したチラシが貼りつけてあるのだった。