芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

星の家

月の光の降りそそぐあぱあとの屋根の下

明かるい窓の中から

子供の影絵がうたをうたってきた

さっきまで台所のほの白んだ水の底で

こつこつまな板を叩きつづけていた手をふと休め

どうやらおかあさんは六月の夜にふさわしく

しんと聴きほれてたらしい

子供はひとりかいやふたりだ

するとあたりが急ににぎわしくなって

これなんて星あれなんて星

かえるのうたやらうさぎのうたやらきつねやたぬきのうたやら

おまけに昔ばなしのももたろさんやらいっすんぼうしまで飛び出すと

夥しい音符の影絵に変身して

四角い窓からあすふぁるとの黒い道をひょいひょい駆けぬけていく……

もうじき仕事を終えたおとうさんのでっかい影絵も

いつものあの破れかかったかわぐつの

もういっとう大好きなおかえりなさい! のあし音を

こつりこつり響かせて帰ってくるんだ

おかあさんと子供たちの合唱が道いっぱい咲き乱れた

にぎやかなお花畑をかきわけかきわけ

花びらの音符を背負って

 

 

*この詩は、今年の四月五日に芦屋芸術のホームページに紹介した同名の詩、「星の家」の改稿だった。

 先に紹介した作品は、一九七六年六月十日、日記帳に書いていたものだった。今回ご紹介する「星の家」は原稿用紙に書いている。おそらく日記帳に書いた詩を改稿したものだろう。私が三十歳の時、もう四十四年前の作品だった。