芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

ドングリの木の彼方まで

 広い草原のまんなかに大きなドングリがなる木が一本立っていました。まだ二十歳になるかならないか、そんなふたりが連れだって木をよじ登っていきました。風が吹く度、背中の辺りで木の葉がザワザワ騒ぎたてました。風にユサユサ震えている梢を透かして、夜の海が見えました。海のずっと向こうには星があり、星のもっと向こうには、大きなドングリの木があって、黒々とした木の葉に埋まって、ふたりがひとつになって肩を寄せあっていました。肩を寄せあいながら夜の海を見つめ、その向こうの星を探し、その果てに立っているドングリの木の葉越し、ひっそり肩を寄せあうふたつの影を、ふたりは驚きのまなざしで見つめていました。

 ドングリの木をずんずん登りつめていきますと、なんだかシラシラしてフックラした場所に出てきました。そこは「彼方」でした。そうなんです。ドングリの木をうんと登っていきますと、海の上の涯、星の光るチカチカした広場があり、さらにもっとうんと登りつめるといいますと、広い草原のまんなかに大きなドングリの木がありまして、木の葉で黒々と埋まっている太い枝の上で肩を寄せ合っているふたり。ひょっとしたら、ここがシラシラしてフックラした「彼方」でしょうか?

 夜が更けてきました。辺りは森閑としているけれど、どこかで風が吹いているのか、木の葉がざわめいていました。若いふたりは暗い海とそのうえで光る星々を見つめていました。けれど、シラシラとしてフックラした「彼方」はまだ見えません。いったい、「彼方」ってほんとうにあるのでしょうか?

 

 

*この作品は二十六歳の時に書いたものです。このたび、多少改稿して発表しました。