芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

一行詩。二十九歳、そして三十歳の秋。

きりぎりす妻の声よりなお近く 1978年8月20日

紙に書いた月が出ている 同年8月27日

虫の足に硝子冷たし窓の秋 同日

コカコーラややためらいし秋の風 同年9月3日

かみなりを引っぱれば雨が降りだす 同日

稲光闇の穴から菊の雨 同日

夕月やことのは絶えて屋根の底 同年9月7日

夢。仲秋を待ちて。名月を消しゴムで消す闇夜哉 同日

星の秋拾えば濡れて池の指 同年9月8日

星拾わんとして散る池の上 同日

稚児の裸足を洗う月の窓 同年9月10日

名月ややや転がって屋根の窓 同日

名月を拾いて濡れん池の鳥 同年9月12日

満月の不図落としたる靴の音 同年9月20日

名月や幾何学的に拾う夢 同年9月20日

秋風や畳の上にかきくけこ 1979年8月28日

秋風やおぜんに響くしるの音 同年8月31日

満月とおはなしをする屋根瓦 同年9月5日

満月やはしの先にてまっぷたつ 同日

星月夜かなづちたたく屋根の下 同日

名月や隣の屋根の風の音 同年10月8日

面影を畳に残す星月夜 同年10月24日

 

*二十九歳、三十歳の日記帳から。