芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

兵士

 その時には、もう私はかなりの手傷を負っていた。このまま死んでしまうのではないか、この世にしがみつこうとする欲望をほとんど放棄していた。マブタから耳や肩や太ももやら、ふくらはぎ、足首に至るまで、体のあちらこちら血が流れていた。全身が痛みのカタマリになっていた。

 不意に天井裏から声がした。厳しい口調だった。

「お前を助けに来た。天井の方へ手を出せ」

 薄暗くてそれまで気づかなかったが、この部屋の天井はとても低く、いまにも頭が触れそうなくらいだった。その上ちょうど頭の先の天井板がめくれて、人が脱出できるほどの穴が開いていた。その穴に向かって右手を上げ、左手は血が流れ始めた腹部を押さえていた。

 ふたりの兵士が私を抱え上げ、天井裏の床板に仰向けに寝転がした。ずいぶん昔に本で読んだ中世の風貌をした騎士そっくりだ、そんな言葉が浮かんだのが私の最後だった。ひとりは私の心臓、もうひとりは下腹部を剣で刺し貫いていた。