芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

何故

 どうして二派に分かれて争っていたのか、私にはわからなかった。ただわかっていることは、投石や火炎瓶が渦巻き、見知らぬ暴徒が殺到する中で、私自身も争い続けていたのだった。

 夜の街、いや、あれを夜の街というのか、だだっ広い、あちらこちら亀裂が走っているコンクリート造の広場めいた場所に流れ込んで二派が対峙し、街路樹の落ち葉のように乱れ、混乱していた。

 私は薄暗い片隅に潜んでいた三十代半ばの男と視線が合った。おびえて歪んだ顔に上唇の右辺を右耳に向かって引きつらせ、腰を引き、前傾姿勢でほとんど白目をむきだしていた。実は私もおびえていたが、残忍なしぐさでこぶしを振り上げ、不敵な笑みを浮かべていたに違いない。悲鳴を上げて背中を向けて逃げ出したその男を追いかけ、後ろから肩をつかんで、路上に投げ倒した……

 ……おそらくその男の自宅ではなかったか……私は彼を逮捕して連行し、何やら大声で脅しつけ、難詰しているのだった。安っぽい小さなテーブルを囲んで、彼の左手にまだ三歳児くらいの男の子が座っている。顔は定かでなかった。というのも、なんというか、映像全体が濁ったプールに潜って撮影されているのか、これはまったく不明瞭な世界の出来事だ、私の脳裡にそんな言葉がチラッとよぎるのだった。

 テーブルを隔てて彼の顔と突き合わせて座っている私の右隣には、私の耳と肩と腕にわずかに接触する彼の妻の息づかいと体の気配を覚えた。全体がボンヤリとして彼女の下半身があるのかないのか、判然としなかった。顔らしきものと胸らしきものはあったが、表面がヌルヌルしていて、ずっと無言のままだった。夫の逮捕劇を見て悲しんでいるのかどうか、いや、私が確認した範囲内では、極論すれば、死体のように無表情だったに違いない。

 私はインスタント焼きそばの袋を五つばかり両手に挟んで小刻みに上下させながら、何やら彼等に怒鳴りつけていた。夜食の準備でも指示しているのだろうか。皿に盛ってまず彼の息子にそれを与えた。床に臥せったまま彼がそれをすすっている。ズルズルした音がテーブルの下から聞こえてくる。ところが、逮捕された身分でありながら、俺にも早くくれといわんばかりに、男は駄々っ子のようにしつこく自己主張を始めたのだった。私はドスンとテーブルをたたいた。激しい怒りが込み上げてきた。この野郎と叫んでいたのかもしれない。あるいは、殴り倒したのかもしれない。だがすでに、すべては消えてしまったのだ。わずかにこの映像だけが記憶にこびりついているばかりだった……床の上に倒れている彼を私は上から羽交い絞めにして連呼していた。これでもか! これでも焼きそばか! これでもまだ焼きそばか!…… 

 私はベッドに寝ころんだまま、薄暗い未明の天井を仰いでいた。何故か耐えがたい自己嫌悪に苛まれていた。