芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

商店街

 商店街に来て気づいたことがある。

 商店街には人気がない、誰もいない。さまざまな店が並んでいるが、看板が見当たらない。店名がわからない。何を営んでいるのか、どんな商売をしているのか、そもそも店を開いているのかどうか、まったくわからなかった。

 足音一つしなかった。人里離れた森の中より静かだった。よく見ていると、色彩も灰一色でそれぞれの店の輪郭でさえ定かではなかった。私は「見ている」と表現したが、そこでは見ているこの私自身でさえ定かではなかった。事実、両掌から両腕、腰、両足へと視線を移したが、私の両眼には灰色の床のような物体が映じているばかりだった。この商店街では、虚空に両眼だけが浮かんで移動しているのだろうか。

 いったい何故私は商店街があると思ったのか、不思議だった。そのうえ何故商店街の虚空には両眼だけが浮かんでいると思ったのか、私には不思議でならなかった。

 

 死が近かった

 いま、その近さを知った

 それが商店街だった