芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

もうあきらめていた。だが……

 夕方、芦屋浜まで出た。きょうの昼間は晴れていたので、ボクは期待に胸をふくらませていた。
 けれども、すっかり裏切られてしまった。空は薄曇り、星はなく、細い月だけがボンヤリ浮かんでいた。
 何度も振り返って月を見上げながら、ボクは家路についた。もうボクはあきらめていた。だが、午後七時前、我が家の玄関先まで来て、西の空に浮かんだ細い月の左斜め上に、火星を見た。
 見る間に、北東から南にかけて、雲が消えた。西空にははっきり、火星・細い月・アルデバランが月を頂点にして逆二等辺三角形を描いていた。あきらめないでよかった! これを見るために芦屋浜まで出たのだった!……そして、その三角形の左側、南東にオリオン、南の低い空にシリウス、その上方にプロキオン、ボクの頭上にふたご座のポルックスとカストル、そして北東にカペラ。
 午後七時十分を過ぎた頃、ふたたび薄い雲がすべての星を覆い、やがて、細い月にも幕が下りていた。