芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

また、志賀直哉の短編を読んでしまった!

 ひょっとしてボクはAに洗脳されたのだろうか。夜の街の電光の中から、「志賀直哉の短編が好き」、彼女のそんな声がして、また、ボクは、しょうこりもなく、こんな本の扉をたたいた。

 「小僧の神様・城の崎にて」 志賀直哉著 新潮文庫

 この本は、表題作を含めて十八篇の短編小説が収録されている。別にボクのような文学音痴が解説するまでもない。巻末に阿川弘之と高田瑞穂の丁寧な解説が付いているから。
 志賀直哉の三十四歳から四十三歳までの彼の中期の作品である。現代の三十代半ばから四十代前半の男性と比較すれば、ずいぶん落ち着いて、静かな語り口である。ほとんど老成した趣さえある。すべて大正時代の作品だが、おそらく長寿社会たけなわの平成時代末期の年齢感覚からすればかなり落差があるのかも知れない。今の時代なら、まだまだ若手の新進作家と呼ばれているのではないか。
 それはともかく、やはり、ボクはAにすっかり洗脳されてしまった。彼女と別れてから、彼女おすすめの、シェンキェーヴィチをかじり、有島武郎をほうばり、さらに、ただいま、志賀直哉の短編まで箸でつまんでしまった!