よせばいいのにと言ったはずだ。しかし、君は人の助言を一切聞こうとはしない。とっとと失せろ! 出ていけ! こんなふうに怒鳴った瞬間、心の底から快感が込み上げてきた。人を裁く喜び。酒より刺身よりずっと旨い。ここで一発、パシッ、右頬に平手打ちでも食らわせば、もっともっといい気持ち、まるで絶頂!
そうなんだ、けれど、怒鳴った瞬間、あの女はうつむいたまま、玄関ドアを開け、背中を向け、ポーチへ出て、後ろ手にドアを閉めやがった。涙ひとつ零さず。うつむいてはいたが、きっと顔は笑っていたに違いない。あの人、また始まった。
畜生! 俺には激怒するこれといった理由なんてなかった。とにかく怒りを吐き出せば名状しがたい快感に全身満たされた。酒を食らって酔っぱらうよりはるかにいい気持ちだった。ヨシッ。「今度」会ったら、あのロングヘア―をつかまえて、これでもか! 床を引きずり回してやる。覚えていろ‼ ドアに向かって叫んでやった。だが「今度」は二度とやってこなかった。