こうしてわたしはこの世に帰ってきた。自分ながら離れ業だと思った。みんななかなか離してはくれなかったから。
といって、あの世が実在すると主張するために、この文章を書いているわけではない。そんな面倒なことなんてどうでもいい。あれがあの世だったのか、それとも夢か、妄想か、そんな話はもうよそう。
この世にもどって来た時、シャツの右肩の辺りに髪の毛が一本付いていた。白いシャツを着ていたので、鏡の中ですぐ目についた。DNA鑑定の結果、わたしのものではなかった。あの女のものだった。彼女は十年前にこの世を去っていた。