芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

闇は闇のままで

「わたし殺せなかった」

 この言葉が、いつまでも鮮明に刻まれている。

 彼はそれ以上の詳細を彼女に尋ねなかった。もうどうでもよかった。今になってみれば、あの時、最も可能性のあった犯人は、おそらくあいつだった。しかし、それを彼女に問わなかった。闇を闇のままでそっとしておきたかった。なぜか、ふたりは見つめあうのだった。

 それから四十三年間、過去を一切捨てて、ふたりは同じ屋根の下で暮らした。そして彼女はこの世を去った。

 

 手は手であって 足とつながらない

 足は足であって 手とつながらない

 しかし

 胴体が消えれば

 首を中心にして 手足はつながっている