芦屋芸術|同人誌・現代詩・小説

左半身

 あの女の破片が印刷されて散らばっていた。いったいこれは何という風呂敷だろう。五十センチ角ぐらいで肌色の一枚だと思っていたが、見る見るうちに拡がり、夜空が肌色になっていくのだった。拡大する風呂敷を追いかけながら、印刷された女の破片が無数に分割して限りなく拡がり、上空を覆ってゆく。

 空はじゅくじゅく湿気ているのだろう。肌色の風呂敷から女の破片が剥がれ落ちた。肉片の雨が降っている。中には、手や口、耳や鼻や足の指やら、形がそれとわかるものもある。

 肉の嵐だった。

 彼の体に肉片の雨がはりついて、既に左半身は十年前に亡くなったあの女だった。